こぐらす日記

ここは思いついたことをただ呟くところで話バラバラ気分次第

「アイネクライネナハトムジーク」映画

映画「アイネクライネナハトムジーク」を観たとき、詩人田村隆一の70年代頃の言葉を思い出した。エッセイだったのか対話だったのか、思い出せなくて正確には言えないが、だいたいのところ「今の平和を満足して安心してはいけない。私たちの次のその次の世代まで、これが続いて、そこでやっと本当に平和と言える」というような内容だ。

 

田村隆一1920年代生まれの人なので、1950年代生まれの私が彼の次の世代だったと言える。そして「アイネクライネナハトムジーク」の監督今泉力や原作作家の伊坂幸太郎は、80年代70年代の生まれで、私の次の世代と言っていいだろう。もはや、田村隆一が言っていた新たな世代の時となった。

 

それで「あ、この感じかな田村隆一が言っていたのは。彼が言ってたほんとの時代に今とりあえずは近づくことが叶ったのかな」と、映画を観終わって私は思ったのだ。この映画の登場人物たちは、ほんとにほんとに敗戦の記憶からは遠くにいる人たちだ。そして優しく柔らかく、幸福な悩みを悩んでいる。いい時代がいくつか続いて、その中ではこういう人らが育ち、それはほんとに平和の姿だろう。

 

親が戦争を体験している「戦争を知らない子供たち」の私には、正直なところ、この幸福感はあまりピンとこない。こんなふうだとよかったなとは別に思わない。かなりもの足りない気もする。がしかし、確かに明らかに、これは田村隆一が言っていた、ほんとの平和なんだろうなと思うのだ。だからきっと、こういう感じが続くことはいいことなのだ。

 

でもきっと続かない。現実のこの時代を見回すと、どうもこのまま続くとは思われない様相だ。まだこの国で戦争が起こってはいないけれども、彼らの更に次の世代たちは、彼らほどやわらかに軽やかに生きられなくなっているのではないか。

 

ああ、人々の理想というのは、完成に近づいたら次は崩壊ってことか、やっぱり、その繰り返しなのか。